【漫画ファンが翻訳作業に携わるのは理想的?に対する考察】

Xのフォロワーさんから

「漫画(ウェブトゥーン)と翻訳者のマッチングがうまくいっていない。翻訳会社は適当に空いている人に振っている感じなので、評判がよくないこともある。そういう不満からか、ファンに翻訳担当させればよいという考えもある。ただし、そういう海賊版がすでに問題になっているのでなあ」という現状に対する不満が流れてきた。

私は漫画翻訳の現場をよく知らないので、一般論として「プロとしてどんな資質が必要か」という観点から私見をご紹介する。

上記マッチングがうまくいっていない現状がここそこであるらしいが、まず、翻訳会社が採用段階または担当させる段階で、翻訳者の得意傾向や、その人の翻訳のクオリティや特徴をしっかりつかんでいないから、ベストマッチングが達成できないのではないかと思う。日頃から人材研究は大事だ。現状を推察するに、毎日の流れ作業に追われて「人材研究まで手が回っていない」のだろうか。ここは経営陣に言いたいのだが、「適材適所が一番大事。この作品にこの人が一番適切だ」という最初の一歩が成功につながる近道ということをしっかり認識いただきたい。この部分に時間と手間と予算をかけるかどうかは重要と考える。

そのうえで、「翻訳人材が足りないなら、ファンに翻訳やってもらえば?」という提案に実効性があるかというと、私は当たり外れが大きいので頼れないと思う。

プロの第1要件は「質を一定レベルに維持」すること。ファンが担当して、一部はとてもよいけれど他の部分がダメならば、進行や構成で最初からやり直しということもあり得る。危険性が大きい。

翻訳者に限らず、プロの第1要件はつねに自分の思いよりも冷静に状況判断して提供する商品の質を一定に保つこと。これが意外に難しい。定食屋さんなどで、いつ行っても「あの味再現」は簡単そうで至難の技。「今日は気分のってるから大盤振る舞い。今日はやる気ねえから帰ってくれよ」じゃプロとしては困るのだ。

ゆえに、かんたんに「ファンに訳してもらえば」提案にはちょっと危険かなと考える。

理想は「その作品に一定の思い入れはある。しかし、仕事のプロとして自分の思い入れに一定距離を置いて、正しく原作の意図や作品の流れを正確に読解翻訳できる」人材。

そういう意味で、ファンの才能を少しでも現場に生かしたいならば、

①プロ翻訳者として通用するように、研修作業を受けてもらう。

②研修結果、翻訳担当は無理でも校閲監修として入ってもらう

という条件で、「ファンをプロ翻訳者として養成する」手段はあるだろう。

この場合も、ファンであっても「ボランティア扱いはやめて」適正な報酬を提供すべきと考える。

このように正規の道筋をつくることによって、過去にあった「海外ファンによる海賊版誤訳暴走事件」の二の舞は避ける手立てにもなればと考える。