インボイス導入に関するアンケート結果&考察

今月3月1日~7日、Twitterで通訳翻訳者を対象に「2023年10月導入予定のインボイス制度についてアンケート」を実施しました。Twitter機能を利用したものですので精密な数字とは言えませんでしょうが、概観傾向を知るには良いのではないかと思います。(カッコ内数字は2022年7月実施時の数字)。

1)【全員対象】

今年10月実施予定の「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」の

内容をよく知っている(最新情報を入手している)

40%       (47.6%)

内容がいまだによくわからない

60%       (52.4%)

105票       (267)     

【考察】半年後から実施予定にもかかわらず「いまだに内容がよくわからない」割合が半数。これは何を示しているのだろうか。インボイス制度があまりに複雑で、かつ、政府がよかれと思って提示した減免措置ゆえにさらに複雑に見えて経理や税務に詳しくなければ「税負担」実感以外にどこからどう手をつければよいかわからないのではと類推する。

2)【全員対象】

インボイス制度に対して適格請求書事業者として

すでに登録した

6.3%

登録予定である

14.3%

決めていない、または免税業者のまま

77.8%

他の業種へ、または会社員に

1.6%

63票

【考察】すでに登録+登録予定で約20%。決めていないか免税のままが80%。会社単位として仕事をしている人にとっては消費税を払っても事業者登録するほうがよいと踏んでいるのだろう。反対に、個人フリーランスや零細法人にとっては消費税負担がどれほどになるかわからないので、ギリギリ9月末までまとうという姿勢とみられる。

3)【全員対象】

取引先からインボイス制度について説明または「課税免税について意向調査が」

あった

54.1%           (9.2%)

説明や意向調査はない

45.9%           (90.8%)

61票            (195)

【考察】この結果にはちょっと驚いた。法人翻訳会社から説明や意向調査がない割合が半分。1.翻訳会社そのものが、クライアントや親会社と今後どういう形をとっていくかまだ会社方針がたっていないからとみるか、2.いきなり直前になって免税業者とはつきあわない、または適格事業者になってと言いそうな気配。

4)【質問で3「あった」と回答した方対象】

インボイス制度導入に備えて

適格事業者になってほしいと言われた

51.4%                  (50%)

適格事業者にならなければ価格交渉または引き下げ

22.9%                  

免税事業者でも取引を続けると言われた

25.7%                  (18.2%)

35票                   (22)

【考察】半数が「適格事業者になって」と言われ、免税事業者でも取引続行と言われた割合は25%。意外に、昨年7月実施時の結果よりも上向いている。これはどういうことか。取引先によって対応がまったく異なっているということだろうか。かたや、適格事業者にならなければ価格交渉引き下げと言われた割合が23%。これを多いとみるか少ないとみるか。価格引き下げとはっきり言ってきた場合は公正取引委員会が警鐘を鳴らす「優先的地位を利用した圧迫行為」になる。

5)【質問4で「適格事業者になってほしいと言われた」方対象】

インボイス制度導入に際して

適格事業者になれば価格アップすると言われた

8%                  (3.4%)

適格事業者になっても価格はそのままと言われた

92%                  (24.1%)

25票                 (29)

【考察】適格事業者になれば価格アップすると言われた=個人翻訳者にかかる消費税負担ざっくり10%分を考慮してくれている会社の割合になる。8%である。かたや、適格事業者に移行しても価格据え置き=実質上、個人翻訳者が消費税負担する側となるのが90%超。その負担分に堪え切れるならばよいが、余力がないと耐えられないだろう。

6)【質問4で「適格事業者にならなければ価格引き下げと言われた」方対象】

価格引き下げられたら、経営は

なんとかやっていける(影響なし)     

38.1%                  (59.8%)

なりたたない(廃業して他業種や会社員に)

61.9%                  (30.2+4.8%)

21票                   (189)

【考察】免税のまま取引を続けるなら価格引き下げ=(あくまでこれは公取法下請法違反行為に該当すると思われる)·は、実質適格事業者になったのと同じことか。たぶん消費税分引き下げと言われているのだろうが、やっていけない割合が60%。いまや、翻訳者の単価はあがるどころか低くなる一方なので、その上消費税分までかぶれと言われたら持ちこたえられないというのは当然だろう。この傾向を取引先である翻訳会社およびクライアントはご存じなのだろうか。仕事を発注しても、だれも引き受けない状態に陥るのでは。

7)【全員対象】

今、インボイス制度について不安なのは

経営全般や運転資金

24.5%

現在より将来性

45.3%

経理税務面の知識

30.2%

53票

【考察】不安要素を3つに分けたが、いずれも同じ割合。適格事業者になれば消費税計算を細かくしなければならない。その煩雑さの習得と、適格事業者登録によっておこる経理ソフトその他の経理処理の変更やそれにかかるコストと作業負担増。このあたりも不安が残るだろう。幸いなことに簡易計算方式であればなんとかなるかと思われる。それでも今までより煩雑になる。消費税負担にいつまで経営的に耐えられるか先が見えない割合が多い。インボイスだけではなく、生活インフラ関係物価上昇が半端ない。その負担も合わせると将来の安定が見えない。

8)【全員対象】

業界団体に望むのは

インボイス制度について業界セミナー

31.1%

インボイス制度について具体的な相談

68.9%

45票

【考察】インボイス制度について具体的に相談したい割合が70%。それぞれの取引先の規模の種類とそれぞれの割合が個人個人で違うため、概論だけ伝えるセミナーでは実感がわかないのは当然かと。

9)【全員対象】

インボイス制度についてわからないことや不安を

相談できる団体、知人、専門家がいる

29.4%

相談できる知人や専門家がいない

70.6%

51票

【考察】インボイス制度に不安はあるが具体的に相談できる知人や専門家がいない割合が7割。このあたり、業界団体の紹介制度があると喜ばれるのではないだろうか。税理士に試算してもらう、青色申告会の個別相談などを利用するのも良いと思う。

10)【全員対象】

インボイス制度について現段階

賛成             

1.7%              (3.8%)

反対

87.9%              (83.1%)

現状問題点がなくなれば賛成

10.3%              (9.4%+3.8%)

58票

【考察】昨年より反対の割合が増えた。根本的な解決策がなんら出ないまま、税負担だけでなく生活物資インフラの高騰を受けて生活を維持できないなら反対というのも当然だろう。昨年来言われていたプライバシー問題も改善されていない。

11)【質問6で「適格事業者にならなければ単価引き下げする」と言われた方対象】

翻訳通訳経験年数は

1~3年未満

14.3%

3年~5年未満

0%

5~10年未満

28.6%

10年以上

57.1%

14票

【考察】この結果が一番予想外。当方予想では、経験の少ない人たちが単価引き下げと言われるのかと思ったら、半数以上が経験10年以上の人たち。取引先の視点で考えれば、免税事業者のまま引き受けたら単価が高い分だけ負担分が増えると考えたのだろうか。10年以上のベテランが単価引き下げを断り離れていくとき、今まで担保していた翻訳のクオリティはどうするのだろう。抜けた穴を何で補うのか。機械翻訳を使って社内でやっていけるのか。翻訳の未来が問われている。

以上です。ここまで見て言えるのは、昨年から問題点の解決がほとんどなされないままなので不安に思う方が多いままです。なかには適格事業者にならなければ単価引き下げと言われた人たちもいます。このままインボイス制度を導入して良いのか、業界としてなんらかの対応をとるべき時ではないかというのが個人的な見解です。 HALライティングカレッジ 豊田憲子