台湾の言語は?と聞かれると世間では中国華語と言われることが多い。実際、私も訪台するまでそう思っていた。しかし、台湾の多くの人にとって中国華語はメイン言語ではあっても母語ではない。というのも人口の75%は台湾人だからである。にもかかわらず、今現在母語である台湾語を日常使っている人たちは20%?とも言われている。この現実の裏には台湾が経験してきた歴史を知る必要がある。
第二次大戦後⇒1947年の二二八事件を通して白テロ時代(多くの官僚文化人知識人が迫害、二二八事件から数か月で3万人近い人が虐殺拷問連行されたまま行方不明。実際、この数値は台北だけの計算で、高雄など台南台中を合わせると犠牲者はどのくらいの数字に上るのかわからないという。
こういう事件を経て国民党によって戒厳令発動。実質独裁制が敷かれた。1949年以降1980年代まで中国同化政策を強いられ、言語も中国華語を強制された。
実際に、台湾語はダサいというイメージの押し付けや方言札(台湾語を使うとバツとして首から札を書けされられる。見せしめにされ、罰金を課せられた)。このような印象操作によって台湾人は台湾語に対してネガティブなイメージを植え付けられ、そのため自分を卑下するようなことになったという。1970年代にはこの同化政策はさらに激化し、テレビ放送で台湾語を話すのをやめようとプロパガンダが始まり、台湾語による授業は週1回のみ。
さらに、ドラマでも台湾語を禁止。政府が内容を検閲することとなった。このような環境で育った人たちは生まれたときから家庭以外で台湾語に接する機会を奪われ、台湾人であるというアイデンティティも奪われていった。
このような同化政策が表面上なくなったのは1987年に戒厳令終止のときである。が、いまだに台湾華語がずっと台湾の主要言語とされ、台湾は中国本土から圧力を受けている、台湾人のアイデンティティはいまだに抑圧されていると台湾人たちは認識している。
李登輝総統の時代になって台湾人アイデンティティを取り返そうという動きが少しずつ出たが、それでも台湾言語の授業や各民族言語授業はいまだ週1回または選択制と少ない。
今もって台湾人の台湾語に対するイメージは
1. 年寄り臭い
2. 田舎の言語でダサい
21世紀にはいり総統が民進党出身者に替わり、特に陳総統時代から少しずつ風向きは変わってきている。そして蔡英文総統は自身がパイソン族と客家をルーツとするので、台湾人としてのアイデンティティ教育に少しずつ新風を入れている。
現在、2018年12月25日、立法院を通過した「国家言語発展法」によると、「台湾における全てのエスニック・グループの自然言語と台湾手話を『国家言語』とする」とされている。これは「言語権」という人権尊重のためにも、稀少言語尊属の観点からも評価すべきである。ただし、台湾には「新住民」とされる移民も増えて、上記すべての言語が同じ扱いで尊重されているかというとなかなか複雑であり、多くの言語文化をまとめるために中国華語と英語を中心にする方が便利という声も出てきて、今後もどうなるかまだ分からないところがある。
今現在も中国から軍事的な圧迫を受けて緊張する台湾情勢であるが、二度と台湾がどこか外国の統治下におかれることがないように、同時にすべてのエスニックグループが対等なアイデンティティを確立できるようにと願うばかりである。