AIの未来に必要な条件 ― AIサービス企業が果たすべき「社会的責任」CSR

連日のように出てくるAIサービス関連情報が多く、利用しようと思ってもとまどうことが多いでしょう。

そういうとき、信頼の目安としてその企業が社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たしているかどうかをチェックするとよいと思います。21世紀の企業に求められている基準であるCSRを理解および評価してサービスを受ける側としても「正しく間違いない利用」ができますようにと紹介します。

CSRには国際的にISO26000規格があり、その中に7つの原則が掲げられています。

  • 説明責任
  • 透明性
  • 倫理的な行動
  • ステークホルダーの利害の尊重
  • 法の支配の尊重
  • 国際行動規範の尊重
  • 人権の尊重

さらに、経産省は平成27年に「CSRについて」のなかでGRI G4ガイドラインから主な論点分類を行っています。

カテゴリー:①経済、②環境、③社会、

サブカテゴリー:①②なし。③労働慣行のディーセント・ワーク、人権、社会、製品責任

上記CSR原則とGRI G4ガイドラインをふまえてAIを見るとき、重要なのは以下の5点です。対象はAIサービス提供側ですが、①今後AIサービスを使いたいと考える顧客、②仕事がAIサービスに関係しそうな企業、またはその影響を受けそうな知的創造活動に従事する労働者にも関連してきます。

1.AI倫理的使用AIの使用にあたってはプライバシーを尊重し、公正で、透明で、誤解を招かないこと。

数年問題になっているAI絵画イラストの無断使用無断学習による著作権侵害、データ収集データ学習におけるプロセス非公開など、倫理的に正しい使用と思われない事例がみられます。

2.AIのリスク管理AI企業は、AI技術の使用に関連するリスクを評価し、管理し、公開する必要がある。AIの誤動作やバイアス、プライバシー侵害なども含む。

AIがもたらすハルシネーションやディープフェイクの問題、バイアス問題、昨日はAI搭載の軍事兵器使用問題まで取りざたされていますが、このような問題に対して積極的に解決する策が見当たりません。これでは社会的に好影響よりも悪影響のほうが大きいと言わざるを得ない状態が日々指数関数的に広がっていきそうで懸念します。

3.AI使用によって起こる人権への影響

AI使用によって、これまで人間が行ってきた作業を無秩序にAIに肩代わりさせようとして、十分な効果が出ていないように見えます。たとえば、翻訳においてはAI原則を利用したMT(機械言語処理)を導入している企業や翻訳会社が増えましたが、多くの場面で現場の翻訳者の作業に負の影響が出ています。

しかし、AIサービス側の「精度95%」「機械を使えばはやく手間もかからない」という売り文句に惑わされてか多くのクライアントには現場の翻訳者たちに次のような負の影響が出ているのが見えないようです。

①実際、AIツールの精度が低く使えない。にもかかわらず、単価報酬は一方的に引き下げられる。

②信頼度の低い生成結果に毎日慣らされているうちに、翻訳者の日本語運用力が下がってくる、など。

4.AIが起こす負の社会的影響に対する認識

3で示した労働者(翻訳者)が劣悪な労働環境に置かれることもCSRの観点から回避すべき状態ですが、AIが出す質の悪い生成結果が放置されたまま社会に出てしまうため、社会全体の国語力低下や公的サービスサイトでみられる大きな問題も招きかねないと懸念します。

さらに、AIのリスク管理面から見てもマジョリティのバイアスが強い世の中に拡散されれば「バイアスの加速」を生み出し、人権の観点からも男女差別やマイノリティへのハラスメントなどの事態を招くでしょう。

5.見せかけのCSRにしないための重要行動

企業報告書や代表挨拶などに「社会的責任を果たす」と記載する企業は多いですが、CSRを果たすためには①明確な目標を設定し、②企業活動の内容と成果を定期的に発信し、問題も含めて内容を「外部に公開」し、透明性を確保することが重要です。現状、AIサービス側のなかで「問題点も含めて情報開示して透明性を確保している」企業はどのくらいありますでしょうか。さらに、③企業活動について、第三者による監査や検証を受けることが重要です。評価と検証を見て、①の目標を改善していくことで将来への飛躍につながります。

今後AIサービスを利用したいとするクライアントはこのあたりをしっかり事業報告書などで確認なさるとよいと思います。

【まとめ】

1.AIサービス提供側としての心構え

毎日出てくるAIツールその他のサービス情報について、十分にCSRを果たしている企業はどのくらいあるだろうかと考えます。絵画、イラスト、漫画、翻訳、執筆、その他、知的創造活動を担っている業界から次々とAIサービスについて疑問の声が上がっています。AIサービス関連企業は説明責任を果たし、AIサービスを正しく公正に使用すべく各場面でCSRを果たしていくように努める義務があります。目先の利益だけを追って行動すれば、いつかはその負の影響がブーメランのように戻ってくるからです。今こそ、企業は「限りある資源を自分や自分の企業だけのために利己的に使わず、大切に未来につないでいく責任がある」ことを十分に理解した上で企業活動にお励みいただきたいと思います。

2.AIサービス利用を検討する側としての心構え

1.で述べましたようにAI関連に限らず、すべての企業はCSR原則を守って企業活動を行う必要があります。しかし現状、CSRをしっかり導入して理想的な企業活動をしている例がすくないのが残念です。CSRを社会に普及してだれにとっても望ましい社会にするためには、AIサービスを利用する側もこれまたCSRの要件に沿って行動しなければならないでしょう。「安く早く」の売り文句に飛びつかない、またはそういう要望を期待しないことが重要です。納品物に間違いや手抜きがあれば困るのは利用する皆様側です。一定の品質を担保するには必要なプロセスと手間をかけ、つねに企業活動を評価再検討することが重要です。サービスを購入する側にも企業のCSRと同じく、「顧客として社会的責任を企業がまっとうできるように依頼側として協力する必要」があります。この点を十分ご理解いただきたいと思います。